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社協について

現在のページ トップページ >  社協について >  広報誌「やさしいまち」No.253 令和5年1月号 新春特別対談

広報誌「やさしいまち」新春特別対談!

 令和5年1月号の「やさしいまち」では、新春特別対談として、札幌市の総合計画である「札幌市まちづくり戦略ビジョン審議会」の会長でもある北海道大学大学院 経済学研究院の教授・博士(経営学)平本 健太(ひらもと けんた)氏に、ご専門の経営学の視点から、市社協における福祉人材の定着やDX、地域貢献に関わる企業との協働や、存在意義、そして未来についてご提言をいただいています。(聞き手 本会常務理事 菱谷 雅之)

対談は大いに盛り上がり、平本先生には社協の未来、福祉の未来について、豊富な事例を元に具体的なアイディアやご提言をいただきましたが、広報誌では紙幅の都合があり厳選した内容を掲載しています。ここでは、掲載できなかった部分を含めて対談の模様を余すことなくお伝えいたします。

対談の様子は、写真をクリックするとYouTubeでご覧いただけます(100秒ダイジェスト版)↓


 ▲(左から)北海道大学大学院 経済学研究院 教授・博士 平本 健太 氏、本会常務理事 菱谷 雅之

特集 チャレンジする 新春特別対談                        福祉の理念とビジネスを両輪に~逆転の発想で地域資源を開拓!

福祉の理念とビジネスの両立

菱谷 社協は行政や純粋な民間とも異なる、公共性の高い団体です。社協には様々なセクションがあり、市民が住み慣れた地域で暮らし続けることができるための支援を行っていますが、特に介護に関わる人材の確保・定着が課題になっています。

平本 どの業界でも人手不足と言われていますが、特に福祉の現場は労働集約性の高い仕事が多く、やりがいを持って入ってこられる若い方が多い反面、報酬が相対的に低いことが指摘されています。結婚・出産といったライフステージに差し掛かった時の将来への不安、これはその労力に報いるという賃金面への処遇を上げていくことが必要なんじゃないかと思います。

以前、高齢者の介護施施設の調査に同行した際の話ですが、経営者は、公共性や理念を大切にするあまり事業性の部分が後回しになっておられる方と、公共性を担うためには利益をしっかりと確保していかなければならないと考えておられる方の二通りいらっしゃったという印象なんですね。高齢者福祉でいうと措置から契約にフレームが変わった時点で、私の専門である経営学で言うところの「戦略」が重要になってきたと思います。理念とビジネスを両立させることが、報酬を上げることにも繋がっていくと考えています。

菱谷 事業体としての戦略が必要ということは、まさにその通りですね。

平本 例えば高齢者施設では、高齢者が喜ぶサービスと、コストをかけてもさほど反応がない部分があるようです。宿泊業でも同様で、株式会社星野リゾートが運営しているホテルでは、お風呂の休憩所に「ご自由にどうぞ」とアイスキャンディーのサービスがあります。1本原価30円ほどのわずかなコストで顧客満足度をグッと上げられる、そういうポイントがあるんだと思います。一連のビジネスプロセスにおいて上手に費用面でメリハリのついた経営を戦略的に行っていく、そのための分析が福祉の現場では必要になって来るんじゃないかと思います。

DXで福祉資源を有効活用化

菱谷 大変参考になります。費用をかけて業務の効率化を図るといえばICT※1ですね。本会でも一番アナログなホームヘルプサービス分野でICT化が進み、スマホで活動報告ができるようになり、その時間を活動に振り分けていけるようになっています。一方で、その担い手になるヘルパー職の平均年齢は63.5歳と高齢化が進んでいます。

平本 ICT※1、DX※2という情報化技術、デジタル技術はものすごいスピードで進化していますよね。デジタル化で紙からスマホにという今ご紹介のあった事例は、DXの最初の一歩だと思うんですよ。例えば高齢者施設ではセンサーをうまく活用することで、巡回の頻度を下げるといった技術的なことも可能になってきている。利用者の幸福度はもちろん重要ですが、監視カメラよりもベッドや床やトイレにセンサーが付いている状況はそれほど違和感はないのかもしれません。情報技術の導入は行政がきちっとメニューを示して後押ししていただく、そこが行政の腕の見せ所だと思いますね。

またヘルパー職の高齢化ですが、体力を補うためにいわゆるマッスルスーツなどを有効活用することもできると思いますし、既に宅配業界では導入が進んでいますよね。デジタル系のモノは急速にコストが下がるという性質を持っているので、ある程度コストがこなれたところで行政が補助金を含めて積極的に導入できるようなメニューを考えてくれると課題の一部は解決していけるんじゃないかと思います。

もちろん、全部を機械任せにすると福祉は成立しないと思うんですよね。ハイタッチ※3の部分をきちっと担保するのにハイテクを使って、人間がやらなくていい部分についてはデジタルにうまく置き換えていくということが人手不足の解消にも関わる重要なポイントになると思います。

菱谷 ポイントは限られた人的資源をどのように有効活用、効率化していけるかというところですね。

福祉へのコミットが企業の価値を高める

菱谷 さて話は変わりますが、社協は様々な企業・団体と協働・連携して地域福祉を推進しています。その中でご寄附という形の社会貢献にとどまらず企業としてSDGs※4を踏まえてどのような社会貢献が実現できるか、そのようなご相談も増えてきています。

平本 2011年に共同研究の成果として「戦略的協働の本質 -- NPO,政府,企業の価値創造」※5という本を出版しました。戦略的協働とは、ビジネスセクター・企業と、行政セクター・自治体や政府と、ノンプロフィットセクター・非営利・NPOというこの3者がコラボレーションしないと解決できない社会課題が少しずつ増えてきている中、協働の実現例や課題を解決して価値を生み出している事例分析をしました。

ビジネスセクターが持っている最大の資源は資本。行政セクターは正当性。非営利・公益セクターは使命感・ミッション。非営利団体が使命感で何か新しい事業を立ち上げようとしても残念ながら資本がなく、ルールや制度がなくてうまく出来ないという時に、お金はビジネスセクター、制度やルール化を行政セクターからうまく資源を補完しながら公益法人がミッションを実現していくというありかたがこれからの社会のある種の標準なんじゃないかと言う事を主張している研究です。

福祉は残念ながら行政だけでは担えなくなってきています。民間ではどうしてもビジネスになるので支払い能力の差がサービスの差につながってしまいますので、3者のコラボレーションが必要になると思いますがそのためにはビジネスセクターからリソースをいただくときのスキーム作ることが重要です。例えば利益を配当に回さず寄附をした場合、それがまわりまわって企業の価値を上げてわが社の売り上げにつながっていくというスキームをいくつか作っていく必要があります。

実は企業側も2023年という時代には、社会への利益還元が不十分で、環境にものすごく負荷をかけているということになれば、今後取引してもらえなくなるということを身に染みて感じています。株式会社JEPLAN(ジェプラン:ペットボトルのケミカルリサイクル事業を世界で唯一行っている企業)の岩元会長のお話ですが、日本の企業でヨーロッパや大きな投資家団体の対象となっているのは、この会社1社だけだそうです。日本のESG投資※6に対する達成水準が低いためですが、株式会社デンソー北海道の社長さんも、今後は地球環境に負荷をかけるようなエネルギーを使っているサプライヤーとはだんだん取引ができなくなってくると話されていました。

今や環境だけでなく例えば障がい者雇用など福祉に関わることでも、利益や株価だけでなく社会にどんな形でコミットして貢献できているのかという指標が、企業の評価として切実に求められる時代になっています。資源をご提供いただけることが将来的に御社の評価につながりますよと言う事が見えるようなスキームができると、企業側もビジネスセクターとして積極的に関わりたくなってくる。そこを行政が正当化してルール化するとうまく回っていくんだと思います。

株式会社JEPLANの岩元会長の話で面白かったのは、日本ではカーボンニュートラルは欧米より進んでいないと言われていたのに、当時の菅総理大臣が所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルを目指すとおっしゃいましたよね。それがものすごいきっかけとなって今や政府の諸機関が一生懸命に動いています。そうやって制度が変わると推進力が変わってくるんです。

菱谷 各企業・団体さんに福祉に関わっていただけることで企業の価値が上がるというわかりやすいメニュー作りが大事かもしれませんね。

平本 公益法人やNPOなど、割と待っているところが多いと思います。積極的に営業に行ってもいいくらい、攻めてもいいと思うんですよね。特に若い企業の経営者の方にはそのあたりを意識されてると思いますので、いい話があれば参加したいと思っている方は多いと思います。

菱谷 社協への初動のアプローチとして寄附はいただくのですが、Win-Winになれる次のアプローチを工夫していきたいですね。

平本 Win-Winの関係が作れると、寄附も一回限りではなく持続的になっていきますよね。ですからそこはとても大事だと思います。今、企業の経営でSDGs※4は当たり前になっていますし、ESG投資※6やCSV※7も実践しないと10年後のわが社は無くなってしまうのではないかという危機感があります。

様々なステークホルダーと価値を共有し作り上げながらそれを高めることで社会全体を良くしていく、そのために企業が存在しているという考え方ですから、そのカウンターパートナーとして社協があると言う事は絵空事ではなくあり得ることだと思います。5年前と今とでは180度ぐらい違っていて、そこのところがピンと来ない経営者は経営者として失格というぐらい、世の中が急速にそちらの方向にシフトしています。

地域は資源の宝庫

菱谷 大変ヒントになります。社協ではこの15年ぐらいになりますが、地域の新聞配達、郵便、保険などの方々にご協力をいただいて民間企業の方のネットワークを活かした見守り活動も行っています。

平本 株式会社感動いちばという道産品の通信販売の会社は、「感動いちば」というインターネットではなくあえて新聞の折り込みチラシをメインの販売促進物として使っている面白い会社です。新聞は現在50歳代以上の世代以外は読まれなくなってきている状況です。大手の新聞社も赤字になっている中で、地域の新聞販売店の収入も下がってしまっているのですが、一方で新聞販売店というのは地域の情報を持っていて、配達するデリバリーの能力があり、月末には集金もしている。情報、物流、金銭の取り扱いとなるとこれは無敵ですよね。こういうところをうまく活用して新聞を売る販売するビジネスから、新聞も販売する地域の拠点ビジネスに転換できないか、当社長の坂崎さんはそう考えていらっしゃるんですね。そこに福祉の見守りとか、今は規制がありますがいずれは定期的に新聞と一緒に薬を届けるとか、お年寄りにデリバリーするスキームができればありがたいですよね。将来的にはコンビニエンスストアや郵便局など地域に点在している拠点とタイアップするようなスキームはありだと思います。

資源というと何か大げさに考えてしまいますが、地域には様々な情報が集まってきていますが、それをお金になる形では使われてこなかったんですが、個人情報は節度を持った使い方が必要だと思いますが、地域の情報は福祉の文脈で考えると大変有効な資源になりえると思います。

逆転の発想で邪魔ものが四方良しに

菱谷 発想を変えていけば、地域の様々な資源が見えてきますね。これからの社協の展開や未来の姿についてぜひ、ご提言をお願いします。

平本 資源のお話で言えば、四国の徳島で、お年寄りが山からきれいな葉っぱを取ってきて東京の料亭に売るというビジネスがありますね。孫のために家を建てたというおばあちゃんまでいるそうです。
また、ニセコの雪は、今でこそニセコを世界的なウインターリゾートにしてくれていますが、オーストラリアの方たちが着目するまでは地元の方にしてみれば冬の厄介者だったと思います。

私はスキューバダイビングをやるんですが、千葉県館山市の伊戸に、日本で唯一、ダイビングをするとほぼ100%の確率で何百匹ものサメに逢えるスポットがあります。いるのはドチザメで、体長は1.2m程度、噛まれても猫に甘噛みされたぐらいで人も襲いません。サメは元々伊戸の漁港の定置網に入ってしまう、漁業者にとってはものすごいマイナスの資源、邪魔者以外何物でもなかったんですね。ところが塩田寛さん(伊戸ダイビングサービスBOMMI代表)というダイビングガイドの方が、これはすごいダイビングサービスができるのではと気が付いて、漁協に掛け合って捨てるザコを貰ってそれで毎日海に入ってご苦労の上、3~4年かけてサメの餌付けに成功しました。その場所は漁港からはずいぶん離れているダイビングスポットですので、今では定置網に入るサメはほぼゼロになり漁協被害が激減しました。漁協はお金をかけずに漁協被害を減らし、ダイビングサービスとしてはさほど資本をかけずに日本で唯一、世界でも稀有なダイビングスポットが開発されたという、まさにWin-Winですね。

更に今、館山市のふるさと納税の返礼品の一部にフカヒレの姿煮があったり、地元の中華料理屋さんでフカヒレの餡掛けご飯を出したりと地域としてはサメでまちづくりを考えている様子ですし、ダイバーは都心から車で3時間足らずの日帰りで行ける距離に世界でも稀有なダイビング体験ができる、今まで駆除されていたサメも救われて、サメまで入れると三方良しならぬ四方良し。サメというマイナスの資源を上手にプラスに転換させたケースです。

あるいは稚内の方では産業廃棄物となって困っていたホタテの貝殻を舗装材の一部に活用されている事例もあります。葉っぱや雪、サメ、ホタテの貝殻。どれもこれも大したものに見えませが結果としてすごい成果を上げています。

菱谷 私たちの身近に眠っている豊富な資源を活かして、当たり前と思っている見方を変えてみる。マイナスをプラスに転じるにはそんな逆転の発想が大切だとあらためて感じました。先生からのご提言、アイディアをこれからの社協活動に活かしていきたいと思います。貴重なお時間を頂きありがとうございました。


※1 ICT 「Information and Communication Technology」の略称。情報通信技術と訳される。
※2 DX デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略。デジタル技術を用いることで、生活やビジネスが変容していくことを指す。
※3 ハイタッチ 「ハイテク(high tech)」の対義語。ハイテクによりかえって質の悪化が発生することがあり、人間的要素(ハイタッチ)は求められるだろうというもの。
※4 SDGs Sustainable Development Goalsの略。持続可能な開発目標と訳される。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。
※5「戦略的協働の本質 -- NPO,政府,企業の価値創造」 小島廣光, 平本健太編著/有斐閣/2011年5月出版
※6 ESG投資 従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと
※7 CSV  Creating Shared Valueの略。「共通価値」「共有価値」などと訳される。






 

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